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復讐の為に [小説]



 



第一章【歴史】








ここは、〝グラウディス・ケーニクライヒ〟

通称グラウディス王国

グラウディスは広大な大陸──ガルシア──のちょうど中央部に位置し、暮らしやすい気候は住人増加の大きな要となっている。

だが、この恵まれた土地と住むに適した環境、そして不自由のない生活は、あらかじめ用意されていたものではなかった。

そう、17年前にある〝出来事〟が起こるまでは………

その頃を知る者曰わく、一時は国が墜ちてしまいそうな程、民たちは混乱に満ちてしまっていたという。

だが、一人の男が起こした〝それ〟により大きく改善されたグラウディスの国は、最悪だった治安や景気、衛生度が軒並み回復し、安定。

それ以降、長年グラウディスの地に均衡と平和が保たれ、国が民の信頼を取り戻したことが何よりの成果であった。

この出来事は後に〝英雄革命〟と呼ばれ、その時代を知る人々から今も尚、世界に広く語り継がれている。



灰褐色のレンガや白塗りのコンクリート等で形づくられたグラウディスの街。

その中央区には立派な王宮があり、まるでこの街の、この国の、そして人々の象徴であるかのように高く、大きくそびえ立っている。

小さな村なら、すっぽりと入ってしまいそうな程広大な敷地内に、今日は数え切れない程沢山の国民たちが王宮の前に詰めかけていた。

集う人々の前に用意されたのは、2メートル四方の高さ3メートルといった鉄製の立ち台。

そして王宮の入り口から現れた人物。

それは………

革命を起こした男、〝バルト〟だった。

17年前の英雄が何故この場所にいるのか。

その理由は、彼の容姿からすぐに感じ取ることが出来た。

白髪に白いヒゲ、そして宝石等を用いた豪勢なマントを纏うという、見るからに堅苦しい正装。

17年もの間、バルトはグラウディスの国王として君臨し続けてきたのである。

そんな彼が台の上に立つや否や、騒然としていた国民たちの声が一気に歓声へと変わった。

しばらくしてもそれが鳴り止やまないことを察すると、王はゆっくりと口を開き始める。

「……静粛に」

バルトの第一声が、群がる国民たちのもとに響き渡る。

「本日、皆に集まってもらったのは他でもない………

グラウディスの建国17周年を祝うため

そして……この国に、そして国民たちに変わらぬ忠誠を誓うためである」

バルトがそう言うと、再び群集の声が沸き起こる。

「……まぁ、せっかくだ。

今日は集まってくれた皆の為に、少しだけ話をしよう。」

国民たちはその様子を固唾を飲んで見守り、バルトは仕切り直して続ける。

「…皆は覚えているだろうか………17年前の出来事を。

世界が称した名、それは〝英雄革命〟

あの頃は、〝ヴァーネス〟という男が国を治め、彼は何より民を思う、良い国王だった。」

国民たちの中から、幾つか、同意の声が上がる。

「……だが、それは表の顔にすぎなかったのだ。

ある日を境に、奴の本性が現れ始めた。

貧民地区の破壊、自らに逆らった兵士たちの虐殺、莫大な税の徴収、そして罪無き民たちの虐殺。」

その言葉の後、王宮前に集った群集は、大きなざわめきに包まれていた。

だが、バルトはそれを気にも止めず、ただひたすらに語り続ける。

「…次第に、そういった奴の暴虐ぶりが明るみに出るようになると、国民たちも同調するようにして、生きる希望を失っていった……

そんな中、歴史上最も悪質な事件が起きてしまったのだ。

名を…〝リヴァイヴァル・ケーニクライヒ〟

〝王国復興〟

……その名の下にヴァーネスは剣を取り、ユーリア、ディアノス、ガイロウ、フレミング、ルノー、ヴェネツィア、ラグネルのグラウディス周囲7ヶ国をたった一週間で制圧してしまった。

ヴァーネスは周辺国を手中に入れることで、グラウディスの完全軍事化という計画を図っていたのだ。

そうして、この事件以来、奴は〝死神〟と呼ばれるようになった……」

『死神』……バルトの口から出たその言葉が人々の耳に入ると、ざわめいて落ち着くことのなかった群集が、急に凍てついたかのように静止した。

17年前の恐怖を思い出し、血の気が引いて顔が蒼白になっている者。

ヴァーネスによって失った身内を惜しみ、涙する者。

バルトの言った通りヴァーネスは冷酷非情な恐ろしい男だったこと、その真実を国民たちの表情と言動が物語っているようにさえ思えた。

そんな国民たちを前に、バルトは再び口を開く。

「……そう、多くの人々が奴の手によって傷つけられ、失われた。

…その頃の私はまだ、グラウディス国軍兵士の一人として働き、生活していた身。

私は、自分が仕える国王が悪事をはたらいている事を知っておきながら、ずっと見て見ぬフリを通していた。

そんなことで正義を気取り、軍を抜け、飢え死にする気などさらさらなかった。

それどころか、ヴァーネスのやり方に共感したことさえあったのだ。」

バルトの口から出た思いもよらぬ言葉に、人々は驚き、騒然とする。

「…だが、リヴァイヴァル・ケーニクライヒの事件を耳にした瞬間、私はこの国の終わりを確信した……
そして、居ても立ってもいられなくなり、自分の中である誓いを立てた。

『必ずこの国だけは守ってみせる』……と。

人々を恐怖のどん底に突き落とした死神を倒す………その頃にはもう、私はそう決意していたのかもしれない…。」

バルトの語る〝歴史〟は、人々に恐怖と悲しみだけを与えるような卑劣なものではかった。

大人たちに呼びかけ、子供たちに真実を伝える。

長い間、グラウディスという国はこうして栄え、大きくなってきたのかもしれない。

「……この計画を打ち明ければ、必ず仲間は賛同してくれるハズだと………私はそう思い、信じていた。

だか…腐りきっていたのは、やはり国王だけではなかったのだ。

奴に仕えていた私たち、兵士も同じように腐り果て、皆がヴァーネスのやり方を認めてしまっていた。」

バルトの後ろで幾つもの列を作り、静止したまま動くことのなかった銀の甲冑を身に着けた兵士たち。

だが、国軍の知られざる実態に、思わず隣と顔を合わせ、言葉を交わす者もいた。

毎年、建国記念日には国の歴史が話されることになっているのだが、その内容は年を重ねる毎に濃くなっていて、まるで………

「出来過ぎた作り話みたいなもんだな」

兵士の中に一人、皆に悟られないよう、小声でそう零す男。

「…結局、私と同じ様に目を覚ました者は、たった十数人に過ぎなかったのだ……

だが、集まった仲間たちがどんなに少なくても、私は諦めなかった。

その夜、ヴァーネスが寝静まるのを待ち、私はある物を盗み出した。

奴に死神という名が付いた由来であり、何千、何万もの人々を斬り捨てたヴァーネスの長剣………」

「〝ヘルス・マイト〟

……それはヴァーネス様じゃなくて…バルト、〝あんたの剣〟なんだろ?」

さっきの兵士が、同じようにして呟く。

もちろん返答があるわけもなく、バルトの話はまだ終わらない。

「その剣が、ヴァーネスの持つ強大な力の鍵であることを信じ、私たちは王宮を抜け出したのだ。

そして街に出ると、沢山の人々が武器を持って私たちを出迎えた。

国民たちは私たちの姿を見て、ヴァーネスの指示でまた自分たちを襲いに来たと思ったのだ。

事情を説明し、奴の剣を見せると人々は武器を下げ、こう言った。

『力になる』……と。

王が駄目でも、国が駄目でも、軍が駄目でも、民の心だけは腐っていなかった。」

バルトの言葉の後、あの兵士が、またも独りでに述べる。

「王も国も軍も……腐っちゃいなかったさ。

バルト、お前だけが救いようのない奴だったんだ。」

「そうして集まった戦力は何千にも上り、私たちは戦いの地に立った。

たとえそれが同僚を殺すことであろうとも、逃げ出すことは出来なかったのだ。

こうして数々の逆境に立ち向かい、遂に私たちは戦いに勝利した。

奴の剣で奴を倒し、全てが終わったのだ。」

「……あぁ、そうやってお前は国王になったんだよ。

都合のいいストーリー作って、国民たちを騙して……な

現に、お前が引き連れたっていう民も、兵士も一人として生き残ってはいないじゃないか?

戦いで全員が戦死……ありきたり過ぎるだろ、バルトさんよ。」

兵士の目は、甲冑の中からまっすぐにバルトの背中を捕らえていた。

「……これがグラウディスの歴史。

そして、英雄革命の全てである。

……ここにもう一度、皆様に強く誓おう。

あの様な事件はもう二度と起こさせはしない……と。」

その言葉でバルトの話がようやく終わりを迎え、王宮の敷地内は拍手と歓声、安堵と喜びで満たされた。

バルトもその様子に満足したようで、手を挙げて微笑みで応えると、ゆっくりと宮殿の中へと引き返していく。

……バルトの述べた歴史は本物なのか。

そして兵士が呟いた小言は真実なのか。

それは、まだ明らかではない。

そして、今日………

歴史が再び動き出そうとしていた。


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